【京都共同研究】オーバーツーリズム解消に向けた取り組みへの注目度が本当に高いという話|研究日誌 vol.2

PLAID広報の柏原です。

「これが俺たちなりの京都大作戦!」でおなじみ、京都大学・京都市観光協会と進めている「DMOとしての観光マーケティング手法」の共同研究。その研究日誌をお届けします。

共同研究?

「共同研究?」という方のために少しおさらいします。

現在、京都大学・京都市観光協会・プレイドは共同で、京都における観光課題解決をテーマとした研究を展開しています。

その主たる論点はオーバーツーリズム。直近でいうと、11月の紅葉シーズンは京都観光の最盛期。メディアでもSNSでも、やはりその混雑具合にフォーカスが当てられがちであった印象です。

こんな記事も話題でした。

京都市がホテル新規開業「お断り宣言」 オーバーツーリズム | 3分でわかる政治の基礎知識 – 毎日新聞
 訪日外国人が急増しています。2013年に初めて1000万人を突破して以降、16年には2000万人を突破、18年には3000万人を超えました。そして政府は東京五輪・パラリンピックがある来年20年には4000万人を目標としています。

京都市の門川大作市長はホテルなどの宿泊施設について「市民の安心安全と地域文化の継承を重要視しない宿泊施設の参入をお断りしたいと宣言する」と述べ、新規開業に歯止めをかける方針を表明しました。

オーバーツーリズムが重要課題とされるのは、それが観光客のみの視点では語れない問題であるためです。

キャパシティに限りのある観光地をめぐる観光客同士のゼロサムゲームという性格に加えて、観光客がエリアにもたらす受益とそこで生活を営む住民が担わなければいけない負担のバランスという論点があるわけですね。

観光客が過剰に増え混雑が慢性化すれば観光客の満足度は低下しますし、観光客がもたらす利益に見合わない負担を住民が強いられることになってしまえば(その利益やコストは金銭のみに還元できるものではなく、生活一般における物的な利便性はもちろん、心理面にも作用する)、自治と観光産業の担い手である住民の離脱を招きかねません。

結果、観光客の満足度の低下、観光地としての魅力の減退につながってしまう。この悪循環に一度陥ると、抜け出すのは容易ではないということは想像に難くないはずです。

このような課題に対して、産官学がそれぞれの知見を持ち寄り、これまでなかった新しいアプローチによってその解決を試みようというのが本研究の趣旨であります。

わたしたちはKARTEのテクノロジーを通して、データ活用によってその一助となることを目指しています。

もっともっと知りたいという方は、ぜひぜひ研究日誌のvol.1プレスリリースも読んでみてください。

vol.1の記事公開から早3ヶ月が経ったわけですが、今回はその途中経過をまとめてみます。

フィールドワークをやりました。

今回は京都市観光協会の二つの公式サイトにKARTEを導入しています。一つは京都観光Naviで、国内旅行者向けのサイト。もう一つがKyoto Official Travel Guide。こちらはインバウンド旅行客向けのものです。共同研究では、サイト利用者の言語に応じて、日本語・中国語・英語と三つのチームに分け、それぞれ展開しています。

共同研究が始まってから、研究をリードする京都大学経営管理大学院の若林教授と学生たち、サイト制作運営者として観光客との接点を持ち続ける京都市観光協会の堀江さん、そしてわたしたちで、研究デザインの在り方やリサーチクエスチョンの設定について何度か議論を重ねてきました。

そこでの合意点は、まず「観光客の意識や行動を正しく把握すること」。

観光客が何を求めて、そこに訪れたのか。その情報を可能な限り「生」のまま把握し、研究の出発点とするべきだ、ということです。

KARTEの活用はWebサイトやアプリの存在を前提とするわけですが、観光客にとっての体験の現場とは他ならぬ観光地。KARTEで来訪者の行動を眺めることももちろん大事だけど、せっかく目と鼻の先に世界に誇る名勝があるのですから、実際に足を運び、観光客へのフィールドワーク調査をしてみようということになったのです。

オンライン→オフライン→オンライン…という行動に文脈を見出すということは、そこに連続性を認めるということです。であるならば、オンラインとオフライン双方から材料を調達したほうが、人々の行動や意識をより解像度高く理解する手助けになりますよね。

ということで、こちらは日本語チームのフィールドワークの様子。場所は伏見稲荷大社です。駅の時点で結構混んでますね(でもこの程度だったらまだ、旅行来た感あって楽しめるかな)。

「Youは何しに伏見稲荷へ?」を一日かけて収集しまくりました。筆者は学生時分にこの手の社会調査の手法をかじり、実践したことがあるのでわかるのですが、いきなり初対面で話しかけて、「質問に答えてください!」というのは本当に大変!悪気があるわけでなく回答者も戸惑ってしまうし、そもそも別の目的がある人のお時間を頂戴するというのは、思っているよりなかなかにハードなのです。

しかし、そこにはまったく臆することなくインタビューを行い、質問票を回収しまくる学生のみなさま。さすがすぎる。伏見稲荷を訪れた方とフランクに会話が弾む場面もありほっこり。こういう何気ない会話のなかにヒントが隠されていたりするんですよね。

この日は、地元のテレビ局のKBS京都さんからの取材も受けました。

京都新聞さんにも取材いただきました。記事はこちら。
YOUは何を求めて京都へ? ベンチャーなど共同研究、混雑緩和へデータ分析

 

やはり地元からの注目度高し、ということですね。課題の重さの裏返しでもあるので、改めて身の引き締まる思いです。

フィールドワークからわかったこと

三つのチームがそれぞれフィールドワークを終え、そこでわかったことを共有したり、お互いにディスカッションをする機会も持ちました。

以下にエッセンスだけ、各チームの報告をまとめてみます。

 

【中国語チーム】

  • 京都を旅行している観光客は大阪に泊まる傾向がある
    空港が近いから?美味しいものがあるから?京都は「ついで」の訪問先?
  • 2パターンの傾向が見られた
  • 混雑は気にしない人
    混雑してるほうが観光してる感がある。観光地とは混んでいるものだという見方
  • 混雑を避ける人
    コンテンツの提示の仕方で、行動変容を促す可能性あり

 

【英語チーム】

  • 英語チームは「交通手段」と「観光先」に着目
  • 交通手段として、「500円バス」を使用する傾向あり
    京都観光案内所では地下鉄も案内してるのに浸透していない可能性。海外の観光メディアでは京都市の移動手段=バスになっている?
  • 「歴史的街並み」が観光先として人気。祇園以外にもあるのであれば行きたい意向あり
  • 公式サイトを知らない人が多かった。情報収集できる手段・チャネルがまだ少ない
  • その他、観光客のマナーについての課題があるようだ。観光客はマナーが「悪い」のではなく、「知らない」だけという可能性

 

【日本語チーム】

  • 情報収集して、行きたいところは混んでいても行く。
    例えば、清水寺は混んでいて当たり前だけどやはり行きたい!という人がほとんど
  • 他の名所の情報があれば行きたい。「情報が不足している」と観光客に思われている可能性
  • 行きたいところの体験を維持させた状態で更に満足度をあげるために他の名所を案内することが行動変容を促すことにはつながるかもしれない

 

個人的には、中国語チームの混雑気にしない人と避けたい人の区分けに納得感。それなりのお金と時間を使って海外に来たわけだから、多少混んでいても行くと覚悟を決めたら行きたいですよね。たとえ後悔することになっても。

そんな人に、無理に「そこは混んでるので別のところおすすめです」と言っても効果は薄いだろうし、むしろ良くない旅行体験になりかねない。その人がどういう意向を持っているのか、ということを把握しないと、行動変容を促すことは難しそうです。

 

共同研究への注目度、ますます高まる

ここまでのわたしたちの取り組みについて、冒頭の報道をはじめ、ますます注目度が高まっているように感じています。先日は、京都商工会議所が主催する観光・運輸部会 公開講演会でも、プロジェクトメンバーが講演を行いました。

テーマは「京都における持続可能な観光を考える~混雑の緩和や観光客分散化の展望~」。まさに、ですね。プレゼンターは京都大学経営管理大学院 修士課程 観光経営科学コース2年の西岡佳澄さん(ちなみに、西岡さんは英語チームです)。 

私も拝聴しましたが、同じく登壇された京都市観光協会の番匠さんの「京都はいま、観光課題先進地である」という言葉にはハッとさせられました。

いま起きている新しい課題を真剣に受け止め解決を図るためにさまざまな取り組みをされているのですが、同時に課題それ自体と解消に向けたノウハウを全国ひいては世界に発信し、各地でオーバーツーリズムが起きないようにするための抑止として、あるいは起こったときの対処モデルケースとして自らを位置づけようとする、「京都」の都市としての矜持を感じました。

社会課題の解決という新しい領域に飛び込めることに伴うワクワク感と、同時にその責任の重さや期待の大きさも感じながら、わたしたちははますますこのプロジェクトに一層コミットしていく決意を新たにしています。

ということで、今回はここまで。

次回以降では、ここで得た発見や仮説をもとに、施策をKARTEへ落とし込んでいきます。その実証をふまえて、オーバーツーリズム解消の糸口をデータを通して探っていくフェーズへ進んでいきます。

 

それじゃ、ばいにー。

 

 

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